銀座のオフィスには、出社せず自宅から直行します。
JR山手線の神田駅に着いたのが、約束の30分前。
そこから、訪問先までは徒歩10分ほどあります。
何度か訪問した事がある場所ですから、時間を持て余す事が想像されます。
だからといって、余り早くに訪問すると、先方にも迷惑だったり、気を遣わせるのも悪いので、視界に入ったスターバックスコーヒーで一服することにしました。
ちなみに、スタバは禁煙ですし、私もタバコは吸いません。
大手のチェーンは、どこにあっても同じサービスが受けられる安心感があります。
店内に入ると、まず席の確保です。幸いにも、ほど良く混んでいる程度です。
入口に一番近いソファで、40代半ばのおじさんが、もたれかかったまま爆睡中でした。夜勤明けでしょうか。
テーブル席では、40~50代のおじさん2人が、女子高生風の少女キャラクターのデッサンを元にグッズの打合せをしています。
「この子は、見た目は大人しいのですが、言葉遣いは男っぽい設定なんですね。」とのこと。なるほどです。ちなみに神田の隣の駅は秋葉原です。
そんな風に周りの客の観察をしつつ、一席だけ空いていたソファー席に鞄を置きました。
身軽になり、颯爽と注文カウンターに立ちます。
私に気づいた30代くらいの女性の店員さんが、笑顔で対面についてくれました。
私は「いつも」のように「アイスコーヒー」のショートサイズと口に致しました。
しかし、彼女は少し不思議そうな表情をしました。若干の中腰で私の顔を下から見上げる姿勢を取りました。
聞き取りにくいにしては、普段余り見かけない姿勢です。
私も、少し戸惑いながら、彼女の目をみて、先ほどよりも大きめの声で、もう一度注文を口にしました。
「アイスコーヒーのショートサイズを下さい。」
すると、彼女の表情がパっと明るくなりました。
そして、満面の笑顔で「かしこまりました!」と返してくれました。
私も、つられて顔が緩んでしまいました。
と、同時に、そのイントネーションというか、発音というのか、どこか特徴があるしゃべり方が気になりました。
そして、彼女の緑のエプロンの胸あたりにあるバッジが目に止まり、納得することができました。
「耳が不自由です」という内容が書いてあったからです。
そうです。彼女には聴覚障害があるようで、さきほど私を下から見上げたのは、うつむきがちに注文をした私の唇を読んで理解をしようとしていた為だったのです。読唇術という技術です。
普段、ハンデのある人と接する機会がほとんどない生活を送っていますので、私も戸惑ってしまいました。
しかし、席について珈琲を頂きながら、先ほどの彼女を見ていると、全く違和感なく接客に当たっています。
それどころか、表情が豊かで、ひときわイキイキしているように感じました。
常連のお客もいるようで、話が弾んでいます。
きっと、耳が不自由で発音も豊かでない分、表情で伝えたり、そうする事で相手も感情を表情に表してくれるようなコミュニケーションが成り立っているのではないでしょうか。
ハンデを乗り越えて働く姿をみていると、私も元気になってきました。
私自身も、震災があった年に原因不明の突発性の難聴になり仕事に支障が出た経験があります。
たまたま片耳だけでしたので、残った聴力で営業にあたっていました。
それでも、両耳の聴力がなくなることも想像したりして、言い知れぬ不安に襲われました。
一ヶ月ほどで回復しましたので、本当に良かったです。
でも、彼女の様な人を見ていると、私もきっと、もしあのままでハンデが残ったとしても、それが原因で営業の仕事が出来ないというのは自分の思い過ごしだったかもしれませんね。
もちろん、だからといって働いてお金を稼ぐという事は、大変です。
様々な状況にある人が同じ職場で業務にあたれる企業経営がそれを実現させている一因だと思います。
ハンデがあっても、皆が協力し合い補いあって、その人の能力を十分に引き出し、そして成長させる。そんな職場環境にしていきたいですね。
気持ちの良い朝の出来事でした。またおいしい珈琲を頂きに行こうと思います。
あなたの近くにそんな人はいませんか。
・・・。
その後、銀座のオフィスに戻って、書類を整理していると、同僚のT中君が声をかけてきました。
「渡辺さーん!今日は飲みに行きましょうよー!奢って下さいよー!」
私「・・・・・。」
「渡辺さーん!返事して下さいよー!」
私、聞こえないフリは良くするのでした。。。
●わたなべ日報● 発行人:渡辺章好
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